ゲロ戦記

待ったよ待った

年末に、ずっと楽しみにしていたドールの発売が告知されたのだ。
サンプル写真もかなり好み。
鳩尾にストライクだったのでゲットを誓った。
年が明けると、ドールショップから年賀状が届いた。
そこにもドールの告知があり、夏に発売される関連商品についても書かれていた。
うっとりの世界観。
自分の欲しいと思っていたものが、少しずつカタチになるのを待つのは嬉しいものだ。
プレビューが始まると興奮は高まった。
かなりのドーパミンが放出され、欲しいものの合計金額を計算しては我にかえる日々。


そして予約の日はやってきた。
人の欲しがるものばかりを自分が欲しがっているのか、自分の欲しいものだから人も欲しがるように思えるんだろうか。
注文殺到を心配はしていたが、カートの激戦激重は驚きの過去最高記録だった。
買い物する客の数に、鯖が耐えられていない。
商品はまだある。でもカートが動かない。
焦る気持ち。遅遅として進まないカート。
そうしているうちに欲しいものが売り切れたりもしつつ、一番肝心なドール本体を注文することができた。
両手ブラリ。白く燃え尽きて、まるで注文することが目的だったかのように放心。
それが1月の11日のこと。
ドールが私のところへやってくるのは2月の頭の予定。
思い馳せると胸が躍った。



ほどなくして、カートが重くてごめんね、という店からのアナウンス。
ドールは、自分で選んだ色のドールアイを自分ではめこみ、自分で選んだウィッグで髪形を決定するタイプのもの。
そのドールなのに、ウィッグが買えなかった人がいるという事態だったので、後日再販、一回戦で買えなかった人に優先的に販売したい、という計画が発表される。
買いそびれたものが買えるかもしれない、ということで、販売日の混乱は少し嫌気がさしたけれども帳消しに。



生活必需品ならいざ知らず、無くても困らないものを手にいれるために疾走する、というのは本当は不本意なのだ。
でも私が欲しいと思うものは大抵が無くても困らないもの。
無くても困らないけどあって欲しいもの。
それはしばしば代替の利かないものでもある。結局、無いと困るんである。
だからたまに必死になってしまう。
無くても困らない必需品。
ジャッジは俺様のみにある。誰もわかってくれんでいい!
でも、私にそれを売る人はちょいとわかっていて欲しいとも思う。
大事なものだから、大事に売ってよね。
自分が欲しくて手に入れた物を見て、「こんな物が必要な自分って」と思うこともある。
それを人から言われたり態度に出されたりするのは一番腹が立つことである。
取引が円滑でない店に苦情を言って「こんなものすぐ送らなくてもかまわないと思った」みたいな態度されたら激怒だろ。



とにかくドールの注文ができた。
欲しいものはあらかた買えたのだし、2月の頭にドールは届くのだ。
早く欲しいなっ、と思いながら、色々計画を立てるのは楽しかった。
リアルにシンドイことが起きたって、現実逃避のお供にまだ見ぬドール。
でもこれがいけなかった。
そのドールのことを考えていると、たまに忘れていたずっと昔のことが蘇る。
私にこえだちゃんを買ってくれた人のこと。
私のリカちゃんにドレスを縫ってくれた人のこと。
集めていたサンリオのオマケとか、千代紙のはいっていた小さなビニールのポーチや、歩くと音のするサンダル、目玉の動くカエルの長靴。
まだ傘を上手にさせなかった頃のこと、ガソリンの匂いがする水溜り、モコモコセーターで川原を走ったら、オナモミだらけになって怖かったこととか。
心がロビンソン。過去と今の距離がわからない。
すっかり思い出迷子になり、もうすぐ届くドールがその距離を埋めるような幻想を持った。
その子がやってくれば、昔のことは昔の扉の中に。今の自分は今の場所に。
それで万事よしと出来る、という御冗談を本気にした。
自分でついた嘘に自分で騙された。



そろそろ届くかね?という時期になるとイライラを通り越して祈るような気持ちになってしまった。
2月15日、出荷遅れのメールが届いた。



現在のところ10〜15日ほど遅くなる見込みになってしまいました。



2月頭を過ぎていることに対する謝罪は無しなのが気に入らない。
用意されていると思っていたドールはまだ作っている途中だという。
単なる輸送の問題なら急かすことも出来よう。
でも作っているものを急かすのはいかがだろう。
ちゃんと作りたい、という店の姿勢に異存なし。
でも、色々あって待つのが辛い。
小さな買い物に、いつの間にか自分の色んなものを委ねた筋違い。
買い物に後悔はなかったけれども、待機する姿勢を誤った自分がとてもふがいないと思った。
これを反省し、15日を耐えることにした。その間に平常心を取り戻したい。



15日間は長かった!
平常心にはぜんぜんなれなかった。
何かの修行をしているようだった。
出口のないトンネル、とかいうと大げさすぎて自分でもアホらしいと思う。
でもそういう気持ちだった。
15日目が近づいてもショップからの連絡も告知もない。
16日目に出荷メールがきて、17日目にはドールが手元にやってくる、そんなはずはない、ということにうっすら気付いてた。
この段階でショップが黙りこくっているのは、嬉しいお知らせは何も無いということ。
なんだか試されているみたいで虚しい。
さらに遅れるならそう言って欲しい。
でもショップは黙っている。約束の15日が過ぎてもまだ黙っている。
なんだか失恋日記のようだ。私ったらどんだけ片思い。



僕らは夢を見ていただけ、そんなドールもショップもありませんでした。
また、そんな設定が似合うようなショップでそんなドールなのだ。
そんなところが好きでもある。やっぱり片思い。嫌いになれない。辛い。



やっと告知。
また約束の期日を過ぎたことに対する謝罪がない。
逆切れというやつなのか。こんなに頑張って急いでいるんだから、悪いと思っているんだから責めないで、という声なき声が叫んでいるようなシレっとした告知。
出来上がったドールから出荷するから待ってろ、とのことだ。
そんな大慌ての、早さ=偉さ みたいな出荷じゃ絶対にトラブる。
やっつけで成し遂げることが出来る人なら、最初の期限が守れたはずなのだから。
柄にもないことをしはじめたショップ。
やりつけないことをしてテンパっているショップ。
総数が200ある、ということだけで、出荷されているドールの数はわからない。
だからやっぱり、いつ届くかわからない。
遅れていることは待っている人皆が知っている。
大事なことだけうまく濁してある告知、これはインフォメーションの意味を成しているんだろうか。
やっぱり叫びの部分だけ言いたかっただけちゃうんかと。
私が欲しいのは謝罪じゃなくてドールなんだけど、それとはまた別件として、がっかりを拗らせた思いが交錯。
そしてやっぱり辛い。俺の片思い絶好調。



ネット上に、「届いた」という人出現。
その人が携帯で激写したという小さい写真を、将棋の名人のように無言でみつめる。
別に何も考えていない。
片思い竜王戦永世棋聖・三冠。私はまだ信じない(信じろよ。
Somewhere over the rainbow Bluebirds fly.
近日中にドールは届く、でもそれがいつかはわからない。
And the dreams that you dare to dream Really do come true.
カンザスは灰色。エメラルドの都の王様の、本当の姿をまだ誰も見たことが無い。
ってそこまで暗くならんでも。
でも嫌なもんは嫌なの。
嫌なんだよ!



この2ヶ月に及ぶ戦いを共に戦った戦友のもとに、ついにドールが届く。
貴様と俺とは同期の桜。
分かつ人がいたことで、苦しみは緩和されておりました。どうもありまとう。
我がことのように嬉しい。
人の幸せを喜ぶなんて、この2ヶ月なかったこと。
少しだけちゃんとした大人の心を取り戻す。
二人で手をとって喜び、ハグで称えあう(脳内)。



それで、うちの子はどうなった?
待ちすぎて脳が半寝みたくなっていたところ、出荷メールが到着。
嬉しい。でもドッキリかもしれない。俺はまだ信じない。
とても嬉しい。待ち遠しい。でもまだ信じない。信じられない。
火を恐れる森の消防士サイのように、とてもメールを警戒するようになっている。
また出荷遅れメールだったらその場で舌を噛み切ったかもしれない。
まだ辛い。
荷物追跡開始。
何度更新しても札幌から動かない。
心がまたシベリアに。西の魔女め。(誰



荷物が綾瀬に到着。どこだよ綾瀬。
二ヶ月に及ぶ戦いで、おばちゃんだいぶ壊れている。
綾瀬の郵便局に電話をかけてぷるるるるる〜今から突撃しまーす(本当に怖いそして古い
電話にでたのもまたおばちゃん。このおばちゃんが北の魔女。
北の魔女にキスしてもらった人は、誰からもひどいめにあわされない。
荷物の居場所を突き止める。キャッスルから2キロぐらいのところにドールがいることが発覚。
そして竜巻が。
かかとを三回打ち合わせ、銀の靴をはいて幻ドールが私のところへやってきた。(本当は裸足
プルプルしながら開封
そこから先はまた別のお話。っていうかいつものドール到着とけっこう同じ。
8割ぐらいの平常心を取り戻す。その晩は安眠したのは言うまでも無い。
あの苦しさなんだったのだろう。
しかし長く辛い戦いだった!思わず記録に残してしまうのだ。