冗談じゃないよ

雑草じゃないよバコパだよ


その昔、ビートたけしが好きだった。
必死にハガキ書いて公開録画を見に行ったり、カレー食べに京都まで遠征しちゃうし、学園祭にいっちゃうし、ツテを辿ってひょうきん族のスタジオに潜入しちゃうし、出待ちもしちゃうし入り待ちもしちゃう。これっておっかけじゃないか?
ラジオもきいちゃう、録音もしちゃう、本も買うしテレビもみるし写真集も買うし詩集も買っちゃう。これってファンじゃないか!
そうだった、私は若干痛めなファンでプチおっかけもしてた。
ビートのおじさん好きだった!

だれでもピカソが10周年、さんまのまんまが1000回記念ということで、
久しぶりに昔のたけし映像とかエピソードをみて、さんまに近況を説明するビートのおじさんを見た。
それで、昔、私は明けても暮れてもこの人が好きだったなあ!と思い出した。
ビートたけしを忘れはしないが、どうして好きだったのか思い出せなくなっていたのだ。
おじさん、とても可愛い。それで私はこの人が好きだった。
最近のおじさんは可愛くない。
マリナに「恥ずかしがりやですねー」といわれて照れているおじさんは可愛くない。
(マリナの横にいるものは何も可愛くない)
滑って愛想笑いされているおじさん可愛くない。
持ち上げられすぎていると可愛くない。
武器に傘を持って襲撃に行くおじさんのほうが可愛かった。
さんまのことを「明石家」と呼び捨てているおじさんをみてキュンときた。
最近、自分の中でタモさんの評価は安定している。
子供の頃はたけしが好きだったが、大人になるとやっぱりタモリかね?と思ってみたりもした。
でもそれは違うんだな。
私が最近タモリっ子になったのは、単にタモリがとっつきやすいから。
なぜにとっつきやすいかというと、タモリは身内家族の話などは最低限しかしないし、
坂が好き、電車が好き、おっぱいが好き、料理が好きっていうぐらいで、自分の個人情報は垂れ流しにしないから。
わずかな間口であらゆる人と絡んでいけるタモリおそるべし。
実際タモリは面白い人だし私は好きだ。
何にでも食いついて、無理やり仕事の間口をひろげようとする浅ましいタレントが横行する中、すっきりシンプルで美しいパブリックイメージ。
ビッグ3とかいってひとくくりにするが、さんまはどこかの団体にグループに属するには異質すぎるぐらい異質かと思う。
3人一緒の共演は少なく、思えばゴルフだけで繋がっているといえばいえる。
三人とも職業は芸人かもしれないが、三人揃うと異種職業戦のていだ。
そして誰もサラリーマンにはみえない。
タモリがサングラスをかけているのは義眼だからと最初に言った人はたけしだったし、下町育ちで品のない男だと最初にたけしを揶揄した人はタモリだった。
最初に顔を合わせたとき二人は気まずかった。「今気まずい!」と声にだしてチャラにしたのがさんまだ。
三枝にすごーく嫌われた男としてさんまが登場し、その男を面白がる二人としてタモリとたけしがいたように思う。
三人は繋がらないのに繋がっていて、離れているのにそばにいる。


たけしに向かってさんまが「何してましたん?」というのはとても不思議な挨拶に聞こえた。
二人は久しぶりに会ったという。
200万するというワイン、ロマネ(の、さんまのまんま放送開始年のもの)を飲みながら
たけしに孫ができた話、その孫は娘が産んだが、旦那のことは嫌になってもう別れてしまい、子供のオムツを自分が換えている、その間、娘がへそを出してどっかでダンスしてたとかいう近況、昔二人でファッションヘルスに行って泡姫たちにサイン色紙を書いたら、翌日手入れがはいって色紙がテレビ放送されて恥じかいた、とか、キオスクのお姉ちゃんに恋をしてマンション借りたとか。
たけしが次第に酔っていき、さんまが嬉々として応じているのをみていて、そのやりとり、その間合い、老害ビッグ3とそれを介護する中堅若手の構成では絶対にありえない日常的な楽しい会話。その姿。
私は心底懐かしく、心地よく嬉しくなった。そして悲しくもなってしまった。
毎日テレビでみられたときは幸せだったなあと思った。
ことさら声を張るでなく。椅子から落ちるでもなく、台本もなしにひょうきんなおじさんが二人で喋っている。
いいパスだせて上手かった、いい受けできて美味しかった、滑ったとか、偉いとか、そんな疲れることは何もなしに二人でただ喋っている。
「(芸人として死ねなかったから)竜助がかわいそうだよ」と洋七が言った、それでこいつは案外まともなことを言うと思ったとたけしが言うと、そのときだけさんまが素になって(いるように見えた)「ああ」と同意して納得している。そのときだけ茶化さずに聞いている、でもすぐにまた早口で笑える話をし始める。
そのとき。
自分の中で、今テレビで起こっているしょうもないこと、例えば・・・
中途半端なタレントがでかい面をしていることとか、出てくる人がみんな特定の大きな事務所所属であることとか、汚い姉ちゃんが歌姫を名乗っていたり、しょうもない素人がカリスマ認定されていたり、相撲のしきたりを知らない外人が大関になれたり、元横綱の親方が壊れても誰も助けることができなかったり、グラビアアイドルを目指した女が連続9件放火で懲役10年だったりとか、親がパチンコしているうちに子供が死んだよとか、都知事選がとても現実の政治と思えないぐらい浮世離れしている件、自分の双子のために法律を変えろと騒ぐ女とか、とか、とか!そんなこと全て、
傍観していよう許していようどうでもいいことにしようと思えてしまった。
自分の腹で消化できんもんは食わんでいい。
なぜかそのときだけ、理屈より先に納得してしまった。
あまりにもビートのおじさんが可愛いかったので。
こんな風に、魔法にかかったまま納得しまくっていたときがあったと思い出した。
全面降伏しなくなったのは、自分が歳をとって知恵がついたからさっ、と思っていたけどそうじゃない。
おじさんがやっぱり可愛い、どうしたもんかと思うぐらいの可愛さだ。
私はただおじさんが可愛いことを忘れていただけだ。
哲学的なあみだ婆の存在。魑魅魍魎の世を駆けていく鬼瓦権造のターン。
よくしつけられた犬のように、私は忠誠心のある良きテレビっ子に戻った。あのときは。