自分床屋

くろげろんげ

ペヤングのとき。
学校の屋上で、友達と髪の毛を切りっこするのが流行っていた。
別に喧嘩髪切りマッチをしていたわけではない。
美容院に行くといって親からお金をゲトし→実際には友人に髪を切ってもらってお金をチョロマカするという横領の手口だ。セコい。
この散髪はとても快適だったと記憶している。
最初は失敗を恐れてちょいとドキドキしたもんだが、慣れればぜんぜんオッケーなのだ。いけるのだ。
屋上に椅子を担いでいき、部活する人たちなどを眺めながら工作ハサミや裁ちばさみでジョキジョキ。
そして私たちは色んな話をした。
バド部Kさんの彼氏がカマス(魚。干物がうまい)に似ているとか、社会科T先生のズラは実は二種類ある、とか。
あんなカマスのどこがリバー・フェニックスなの!
それはいいとして、そんなスーパーフリーな散髪スタイルを送っていた私、長じてからはちゃんと美容院にいって切るようになった。
美容院も嫌いじゃなかったと思う。
しかし最近、予約したり髪型決めたり時間通りに現場に行ったりとかいう一連の流れがめんどい。美容院に行くという行為そのものがうざい。
そろそろ行かねばなーと思いながら髪をいじっていて、昔たった一人だけ、散髪を自分でやっているという勇者に出会ったことを思い出した。
肩の下まである髪が、いきなりアゴぱっつんになっていたので、あら素敵、なんて話しかけると「おかしくない?」という。
ぜんぜんおかしくない、とても似合ってる。すると勇者はこう言った。
「自分でやったから揃っていない気がする」
えーっ。
前髪をちょっと切りそろえるぐらいのことを自分でやる人はいるとおもう。
それは私もよくやる。でも、ロングをショートにするなんて勇者すぎ。
しかも勇者は当時一人暮らしをしており、家にある一番大きい鏡がユニットバスについている鏡で、その鏡と合わせ鏡するために使った鏡はファンデのコンパクトにくっついている直径10センチ弱のチビ鏡だというのだ。
・ユニットバスでの散髪=鏡の高さ位置的に座ることができない立ったまま
・片手にチビ鏡、片手にハサミ(工作用)
・誰にも手伝ってもらわず一人で
・毛はわりと多いほう
・毛はわりと太いほう
どの条件をとってみても特殊技能認定にしぶる理由がない。
左右も対称だったし、毛先も揃ってた。それは見事はボブだった。
あれは凄かったなあ。
そんなことを思い出しているうちに、私は気付くと手にハサミ(散髪用)をもっていた。
鏡を担いで庭先にいた。
頭に寝癖スプレーをかけていた。
心のままにチョキチョキやっていた。
ロン毛なので、失敗しても結んでおけばいいのだ。結ぶだけの長さがあればなんとかなるのだ。
どうせ近いうちに散髪にいくのだしな。


髪を切るのは楽しい。
もし男子に生まれたら、坊主、モヒカン、面白モミアゲは絶対にやりたい。
なぜ女子のうちにはしないのかというと、そんなことで目立ちたくないからです。特に主義とか主張もないのでぶつけるべき体制も挑む壁もない。
モヒカンに耐えるビジュアルもない、坊主を洒落に出来る人望もない。
ただ毛が伸びたので切るのみだ。
フロント、サイドとやっているうちに、調和を求めて全体にはさみをいれることになった。
右手で切っているので右側はやり辛いのだった。
途中で飽きて面倒になったが、なんとか左右バックとやり遂げた。
もうちょっと冒険する覚悟はあったが、技術がないので今の髪型をなぞる切り方しかできなかったのだった。
今どんな状態かというと、毛先が若干ふぞろいな段いりロン毛。
切る前とほとんど変わらない。
と、自分では思うが本当は凄く変なのかもしれない、いつもこんなもんなのかもしれない。
美容院にいくのがますます面倒だ。ああ面倒だ。